愛する乱暴者とその仲間へ          川竹 文夫

 私はいつも松尾さんに、自分と同じ匂いを感じる。それは、乱暴な奴だけが発する特有のものだ。オシャレな美人を〈奴〉呼ばわりするのは失礼な気もするが〈乱暴〉に続く言葉として、〈人〉や〈女性〉では、まるでふさわしくない。
 第一、商売をほったらかしにして人の世話に奔走し、挙げ句に疲れ果てては、店の隅っこに段ボールで囲いを作り、その陰で束の間の眠りをむさぼるなんて乱暴狼藉を働くのだから、やっぱり〈奴〉としか言いようが無い。


 そう、彼女は、自分の身体と心をとても乱暴に扱うのだ。けれど、こういう相手に向かって。「あんまり無理をしない様にね」などと言っても何の役にも立たないのは、火を見るより明らか。屁にもならない。全ては無駄なのだ。
 同じ匂いを発する私が言うのだから、これは信用してもらって間違いは無い。要するに放っておくしか無い。したい様にしていただくのが一番なのである。その証拠に、松尾さんはあっという間に百人を擁する団体を作り上げ、しかも、いくつもの分科会が個性溢れる活動を展開するのを、一流の指揮者よろしく、見事にまとめ盛り上げているではないか。すべては、彼女が、したい様にした結果なのである。


 私は講演会などの折、聴衆に向かって次の様に言う。
「あなたたちは幸せだ。私が15年前にガンになったとき、ガンの患者学研究所なんて素晴らしい団体はどこにも無くて、おかげで私は、ずいぶんと一人で悩み苦しんだ。失わなくてもいい臓器も失った。でも今は、ガンの患者学研究所がある。皆さんはなんて幸せなんだろう。」
 これは半ば本気、半ばは冗談なのだけど、青葉の会の会員の皆さんが、幸せであるということは、本気の本気、大声張り上げて、私は言える。
 これもみな、松尾さんが、アクセルはあってもブレーキのないスポーツカーのような乱暴狼藉者であったからこそできたことなのだ。だから私は彼女に「体をいたわって下さい」などとは言わない。金輪際言わない。青葉の会の皆さんの、ガン治しと幸せのためにも、そんなこと言わない。


 なに、妙なもので、乱暴な奴として長く生きてくると、知らず知らず、ブレーキなんか無くても、そこらの一般人より、ずっとうまく自分を乗りこなす術を身に着けているものなのだ。
 だから、会の人たちも安心して任せていい。ただし、これだけは、お節介を承知で言っておきたい。
 みんな治れ。早く治れ。再発するな。幸せになれ。どうか、ドジをして彼女を悲しませたりしないでくれ。でないと……俺は、怒る。


 前月、ガンの患者学研究所は、伊豆下田で、支部の全国大会を開催した。超一級のリゾート地、唖然とするほど豪華で美しい会場で、うっとりするほどおいしい玄米菜食付で、しかも交通費も何も一切無料で30数名をご招待したのである(自慢してスマン)。
 その折、オブザーバーとして松尾さんをご招待した。青葉の会の活動ぶりをレポートしてもらいたかったのだが、残念なことに、玄米料理の講習会か何かと重なって、どうしても来てはもらえなかった。実は、出席してくれていれば、ぜひともプレゼントしたいものがあった。参加してくれた仲間みんなに贈った、私の自作の詩である。参加者の前で朗読したそれを、今、心を込めて、ここに掲げたい。
 

 いるから

 

 

 


    いることは 嬉しいことだ  いることは 凄いことだ
    ましてや あなたがいることは  とてつもなく
    あなたがいるから 私は前進する  あなたがいるから 私は負けない
    気弱で泣き虫なこの私に  大胆不敵な知恵が宿る
    奇想天外 疾風迅雷  パワーに満ちた四文字熟語が漲ってくる
    あなたがいるから 泣きべそ顔のたくさんの後輩たちが
    膝の泥を払って立ち上がってくる
    何十 何百 何千の  泣いたカラスに笑顔が戻る
    あなたと私 私とあなた
    ああ、これぞ  天下無双 史上最強 空前絶後
    パワーあふれる四文字熟語の  黄金コンビだったのだ
    幾千万回のありがとう  幾千万回の二乗回のありがとう
    幾千万回の三乗回のありがとう  

 

    今こそ 松尾倶子さんに贈ります

 最後に青葉の会の皆さんにお願いをしたい。ガンの患者学研究所は、ガン医療の歴史を患者の側から変えていこうと本気で思っている。
 そのためには、仲間が欲しい。ぜひとも欲しい。気軽に交流し、切磋琢磨し励まし合う仲間が欲しい。
 だからまず私たちが、青葉の会の皆さんにとって、そんな気の置けない仲間になりたいと思っている。この気持ち、受けていただけるととても嬉しい。
 松尾さんはあの通り、陽気な乱暴者だ。狭い世界に閉じこもっていると、やがて飽きるかもしれない(おっと、これは私自身のことかもしれないな…)。
 その意味からも、がん医療の歴史を変える戦列に、青葉の会の皆さんも、ぜひぜひ勇躍、加わってほしいと願うばかりなのである。  

(ガンの患者学研究所 代表)